未払い残業代請求が急増してる背景

 ○1990年頃の電通事件(新入社員が家に帰れないくらいの残業を行った結果、うつになり自殺をした事件、労災認定)をきっかけに、行政も裁判も一変してきました

 ○ネットの普及による労働者の意識の変化

○グレーゾーン金利による過払金バブルの終焉による次のビジネスの模索 

  (弁護士、司法書士、行政書士、社会保険労務士)
 

未払残業代の請求のきっかけ

 ○在職の労働者が監督署へ申告するケース

 ○退職者からの請求

 ○監督署の定期監査

 ○労働組合へ加入し、組合が請求

 ○弁護士・司法書士等による代理人からの請求

 ○行政書士、社会保険労務士が裏で糸を引いて、本人が請求

 

期間及び金額

 ○どのくらいの期間分か

  2年の時効があるので、通常2年分請求してくる

 ○未払い残業代+遅延損害金+付加金

  遅延利息 退職日までは6% 退職日以降は14.6%

  付加金  裁判により、未払い残業代と同額までの付加金を請求されることもある。

  例.

200万円の未払い金+遅延利息(6%+14.6%)+付加金(200万円)=400万+α

 

未払残業代が発生するケース

 

1.サービス残業

 ○まったく支払わない

 ○一定額までしか払っていない

 ○固定残業代しか払っていない

 

2.適正な労働時間管理を行っていない

 ○管理監督者

  職務内容と権限 採用、解雇、人事考課、労働時間の管理の権限がない

  勤務態様    出退勤時刻は管理され、労働時間も裁量に任されず、現場の作業がメイン

  賃金等の待遇  年間賃金総額が一般の労働者と同等

          役職手当も残業代をカバーできていない

 ○年棒制の者

  年棒制の方も、時間管理の必要があり、残業時間に対しては残業を支払わなければいけない。契約の段階で、残業代込の賃金ということを労使ともに確認し書面に残すことが重要

 ○営業職(事業場外のみなし)

  外回りが多い営業職の方を事業場外のみなしとしている会社がありますが、社外へ出 て行って、どこで何をやっているか把握できないものでないと認められず、携帯で連絡がとれるような状態では、事業場外のみなしは適用されない。

 

3.残業代(単価)の計算ミス

 ○対象となる手当の算入ミス

  限定列挙されている。名称ではなく、実質で判断される。

(家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、住宅手当、臨時に支払われるもの、一ケ月を超える期間ごとに支払われる賃金)

たまに住宅手当の割合を増やすこと等によって残業単価を下げることができないかとの相談を受けますが、正しくはありません。

 ○残業時間集計のミス

  所定労働時間が正しくないケースが多い

  所定労働時間の求め方

(365日−年間休日数)÷12月=月平均所定労働時間

 たまに、200時間等計算の根拠がない所定労働時間を使用されている会社がありますが誤りです。

 

残業代を支払う義務のある労務の提供か?

 

 ○業務命令がでているか。どのような業務命令か(明示・黙示)

 ○労務提供はどのようなものか(業務に関連しているか。準備行為・後始末)

 ○適用除外者ではないか

 

解決策

 ○労基署の是正勧告

  労基署の場合、申告によるものか、定期的なものかを見極める。

  労働基準法違反の箇所に対して、是正勧告書が交付され、期日が切られ是正を求められ、是正報告書を提出することになります。通常一点のみではないので、是正がすんだものから報告して行くことで、是正期限を延ばすこともできます。

  虚偽の報告をあげると、有罪になることもあるので注意。

 

 ○従業員からの請求

  一人か多数か、退職者もいるか、請求金額の根拠が正しいかどうか、本人か代理人か(弁護士等ついているか)、和解交渉(訴訟になったら勝てるかの判断)、合意書作成(守秘義務)、解決金の支払い(未払い金としない。認めたことになるし、他の従業員への影響を考慮)

 

 ○退職者からの請求

  例.請求(主張)200万円、会社調査100万円 → 130万円〜150万円で和解

  裁判で100万円が立証できたとしても付加金のリスクがあり時間と労力と費用の無駄

  多少多めに支払っても和解のほうが良い。なるべく時間をかけて(労力は使わない)、簡単には支払わない。他の従業員への影響を考える。

 

 ○在職者からの申告

  全労働者と面談して労働時間を特定する。タイムカードに打刻されている全部が労働時間とは限らない。

  総額人件費の中で対応(賞与・昇給に影響する旨伝えると放棄する場合もある)

  就業規則の確認(昇給の定めに毎年何%ずつor1万円昇給等と具体的に記載していると調整できない。同じく賞与も夏は、基本給の2ヶ月分、冬は基本給の2ヶ月分と記載していると調整できない。)

  昇給の定めは、昇給しないことがある。もしくは降給する場合もあると規定する。

  賞与も、社会経済情勢により支給しない場合があると記載しておく。

 

事後対策

  就業規則の整備

  労働時間管理を含めた労務管理の運用をしっかりする(残業も許可制にする等)

 

予防策

 ○記録を残す(労働時間管理は、使用者の義務)

  タイムカードの時刻=労働時間ではない。

  タイムカードに打刻する時刻は出社時刻であり、始業はあくまで、就業規則に規定している時刻とする。

  退勤についても同様、打刻時刻は退勤時刻であり、終業時刻はあくまで業務を終えた時刻として労働時間を集計する。

  残業をする場合は、許可申請させる。許可がない時間は、残業と認めない。

 

 ○労働時間制度の見直し

 

  1箇月単位の変形労働時間制

  1ヶ月のうちで、月末など特定の時期が忙しいと、忙しい時期は残業が増える一方で、暇な時期には手持ち不沙汰な時間が増えるといった非効率が生じます。

  こういった場合に、1ヶ月を平均して週40時間を超えない範囲で、忙しい時期の所定労働時間を長く、暇な時期の所定労働時間を短く設定しておけば、時間外労働の発生を低く抑えることができます。

 

1年単位の変形労働時間制

  季節的に忙しい時期が決まっている業種、例えばボーナス時期が忙しいとか、ある程度忙しい時期が決まっている会社では、効果的な制度です。

  労使協定を締結すれば1年単位の変形労働時間制を採用することができます。このとき、1年の労働時間を平均して1週40時間以内であれば、40時間を超える週や8時間を超える日があってもOKです。

  協定で定める事項

  1.1年単位の変形労働時間制を適用する社員の範囲

  2.1年単位の変形労働時間制の対象となる期間(1年間以内)

  3.特に忙しい期間(特定期間)

  4.出勤日とそれぞれの出勤日の労働時間(1年間を1ヶ月ごとに区切って、各月の出勤日数と総労働時間とすることも可能)

 

  1箇月単位の変形労働時間制のメリット 

就業規則に規定すれば採用できますので、導入が簡単です。労使協定がなくても採用できます。

  1箇月単位の変形労働時間制のデメリット 

月単位で週40時間をクリアしなければいけませんので、1年単位の変形労働制に比べて柔軟性がありません。

 

1年単位の変形労働時間制のメリット

1年を通して計算しますので、祝祭日が多い月や忙しくない月の労働時間を減らせば、減らした分だけ他の月の労働時間を多くできます。

  1年単位の変形労働時間制のデメリット

   労使協定が必要で、毎年労働基準監督署へ届け出ないといけません。

 

  フレックスタイム制

  1箇月以内の一定期間(清算期間)における総労働時間をあらかじめ定めておき、労働者はその枠内で各日の始業及び終業時刻を自主的に決定して働く制度です。

 

フレックスタイム制のメリット

社員が始業終業の時刻を自分で決めることができるため、夜遅かった日の翌日は休養をとってから、遅めに出勤できる。

育児・介護のための時間をとることができ、仕事と家庭のバランスを保てる

人材の確保、定着に効果がある

社員の労働時間に対する意識が高まり、残業代の削減になる。

   大都市圏の場合、通勤混雑を避け、余裕をもって出勤できる。

 

  フレックスタイム制のデメリット

   自己管理能力の低い人は残業代がかえって増える

   出退勤の時間がばらばらなため、会議、打合せの時間がとりにくくなり、コミュニケーションがとりづらくなる。

   担当者の不在が生じる

   照明・空調等経費がかさむ。

 

 ○管理監督者への役職手当の例

                望ましい手当A   名ばかり管理職の手当B

役職

手当金額

手当金額

部長

120,000

60,000

課長

80,000

40,000

係長

10,000

30,000

主任

5,000

10,000

 残業代を支払うとき、少しでも会社のリスクを減らすには、役職手当の金額の決め方が大きなポイントとなります。

 残業代の算定の基礎から除かれる手当は、労働基準法で①家族手当②通勤手当③別居手当④子女教育手当⑤住宅手当⑥臨時に支払われる賃金⑦一ケ月を超える期間ごとに支払われる賃金です。

 したがって役職手当は、残業代の計算の基礎に算入しなければなりません。この役職手当の決め方が「名ばかり管理職」対策となります。

 上の表を比較してください。表Bは、役職間の金額の差が小さく、残業代を支給していない会社で良く見る役職手当の例です。

 これに対して表のA欄では、労働基準法上の管理監督者を部長・課長とし、係長以下に残業代を支給している会社の例です。部長・課長と係長以下では、大きな金額の差を設定しています。これが重要です。

 残業代を含まない所定内賃金では、基本給の差もありますので相当大きな金額の差が出ます。係長以下に残業代を支給したとしても、総支給額で部長・課長は係長以下の一般社員より相当優遇されていることになります。これは、部長・課長が「名ばかり管理職」ではなく、労働基準法上の管理監督者であると認められるための一つの要因となります。

 万が一、部長・課長が「名ばかり管理職」であるとされても、この役職手当が一定の時間に対応する残業代を含むものと賃金規程に記載しておけば、少しでもリスクを減らせます。

 表のB欄のような役職手当の金額を設定していると、労働基準監督官の調査や社員から未払い残業を請求された場合、部長・課長が一般社員に比べて給与面で優遇されていないとみなされ、部長・課長の労働基準法上の管理監督者性を否認される可能性があります。また係長以下の未払い残業を請求された場合、役職手当もその計算の基礎に算入しますから、未払い残業代の金額が大きくなるリスクを負っています。

 表のA欄のように労働基準法上の管理監督者とそれ以外で役職手当の差を大きくするとリスク回避の有効な手段となります。

 

○さまざまな変形労働時間の導入も検討しても、どうしても残業時間がでてしまうという場合には、固定残業制を検討しましょう。

1年を通しての各人の残業時間を把握し、固定残業代として支給する。

 全社員一律30時間等のように合わせても良いし、Aさんは20時間、Bさんは30時間というように、各人ごとに設定しても大丈夫です。なるべく実際の労働時間に沿ったものにする。

 賃金見直しの際は、就業規則の変更を行い、個別の同意書をとるようお願いします。

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